概 要

本種は2000年以前、幻のパイソンとも呼ばれたパプアニューギニア産の大変美しい蛇である。一部のパイソンマニアには「究極のパイソン」などと呼ばれることもある。

ニューギニア( イリアンジャヤ) からほぼパプアニューギニア全域( わずか一部の離島 でも発見されている) の標高1000 〜 2000m の高地(Map1,2 参照) に生息しており、人が踏み入ることも困難な渓谷や岩肌を拠点としていることから、生息数はかなり多いにもかかわらず、日本への入荷量が少ないと思われる。

また繁殖に関しても、まだまだ未知の部分が多く、難しい。海外のブリーダーの一部で繁殖に成功している例もあるが、CB個体が出回るにはまだまだ時間がかかりそうである。

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特 徴

・カラーレーション

本種の魅力のひとつでもある「黒い大きな身体」は、出生時は全身が赤褐色(*1〜*2)で生後3〜6ヶ月の幼体になる過程でヘッドから黒くなりはじめ 、 アイボリーからオレンジ色の不規則なバンド(*2〜*3)がはっきりしてくる。ネックからテールにかけては光沢のある紫がかった赤褐色になる。 特筆すべきはこの頃の触り心地だ。まるで絹のように指の間をすり抜ける。この感触は他の蛇では味わえないのではなかろうか。

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*1 *2 *3 *4

生後10〜24ヶ月前後にかけて、その赤褐色が次第にブラックに(*4〜*5)変化していき、おおよそ生後2年で全身がビロードのような輝きを放つブラック(*6〜*7)となると同時に、テールの尾根に沿ってヘッド方向へホワイトからイエロー(*8〜*9)のバンドが消失しはじめる。 ほぼ個体差のない本種に、実はいくつかのタイプが存在することはあまり知られていないが、側腹部を除くほぼ全身がブラック(*9)になるタイプとバンドが残るタイプがあり、 日本に入荷してくる個体はなぜか後者が多いようだ。これは地域差ではなく、タイプの差である。また、ヘッド(*10)の形やウロコ他、各所に微細な違いが存在する。

海外ではこの黒い大蛇を別名で「BLACK PYTHON」と呼ぶ。

この黒い体色は、高地の岩場や山肌などで効率的に太陽光熱を吸収するためと言われている。


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*5 *6 *7
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*9 *10 *8 9 years old Male Length308cm

・サイズ

野生成体の全長は約2m〜2.5mとされているが、しっかりとした飼育管理の元、順調に育てば、生後3〜4歳で約3m前後にはなってしまうだろう。 イリアンジャヤのワメナとジャワ島レンバンでブリードに成功しているが、その時に使用した個体が2.4m〜3.7mとされているので、かなり大きくなる個体もいるということだ。 しかし、3.7というのは稀なケースではないだろうか。

ボディーはヘッドからテールにかけてのバランスが良く(太からず細からず)、同じ全長のバーミーズパイソン等と比べると小さく見える。 それなりのパワーはあるが、人を殺傷するほどではなく、(とはいいつつ、3.5m前後ともなれば、そうは言い切れないが・・・) 2010年現在において危険動物指定に入っておらず、 まさしく最大のペットスネークといっても良いだろう。 このままの規制の網がかからないことを望みたいところだ。

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*11:12 years old Female Length335cm Weiths 12.3kg

・性質と寿命

性格は温和な個体が多く、他のモレリアと比較して「頭がイイ」。 というのは、よほど空腹時ではない限り、餌と人の手を間違えることがない。 とはいうものの、全てに当てはまる訳ではない上、かなりの巨体になるので、くれぐれも用心を。

動きはゆっくりだが、昼夜問わず活発に活動する。 本種は飼育下で21歳が最高記録という報告がされている。野生下ではワシや鷹に補食されることが多く、それほど長く生存していることは考えづらい。

他の死因としては回虫類、ラウンド虫、線虫などの寄生虫によるものが最も多い。

・飼育に関する間違ったX情報

「ベーレン様」「神」などと云われるほど非常に魅力的であり、「別格」に扱われる本種だが、その飼育方法について、様々な間違った情報が横行している。 下記において正しておきたい。

X飼育が難しい
飼育法は他のカーペットパイソンとほとんど変わらない。しかし、前述、「頭がイイ」ので、劣悪な飼育環境においてストレスを溜めやすい。 常に清潔な環境を心がけることが大切である。
事実、筆者が本種飼育を人に任せたことがあり、それによる環境の悪化で体調を崩した経験がある。 それは本種だけに限った事ではないが、より敏感だと感じている。
特に注意したいのは「水」。本種は他の種と比較してたくさんの水を飲む。 健康維持に清潔な水は他の種も不可欠であるが、他の種は多少汚れていたり、古くなった水でも、のどが乾けば飲むだろう。 しかし本種は「清潔さ」を失った水を飲まないので、より気を使う必要はあるだろう。当たり前ではあるが、常にケージ内を清潔に保ち、清水を常設することを心掛けたい。
Xすぐ死ぬ
近年日本に入荷するほとんどが、ファーミングハッチ個体ベビーサイズで、購入前に餌付いていれば比較的問題なく成長してくれる。 後述飼育法で他のカーペットとほぼ変わらないといって良いだろう。突然死する確率も他のヘビと同等( 確率算出したわけではないが) ではなかろうか。 「すぐ死ぬ」といわれるのは、ワイルド個体で、ある程度育っている個体が多い。それは例えるとグリーンツリーパイソンなどのケースと酷似しているように思う。 前述の「水」の問題や、飼育環境の変化、寄生虫など、様々な要因が考えられる。
また、ワイルド個体特有ではあるが、給餌において、気難しい個体も多く、餌の種類や与え方、餌種の切り替えなどをスムーズに施さないと拒食からはじまり、 死に至ることが多い。
X紫外線照射が必須
これは爬虫類関係者が口を揃えて言うことらしいが、その必要性には疑問を感じる。確かにするに越した事はないが、飼育する上では、なくてもまったく問題ない。 しかし、こと繁殖となると、因果関係はないとは言い切れない。
X昼夜の寒暖差をつけないとダメ
生息地の環境データを知り、その環境に近づけることは大切であるが、飼育するのみの目的であれば、冷たすぎる空気を吸うと、 呼吸器系のトラブルを抱えやすい蛇の特徴を踏まえると、温度の急な勾配は避けた方がベターと考える。

飼育方法

・ケージと温度セッティング

ベビー時は広すぎると落ち着かないとか、餌喰いが悪くなると言われているが、最初から成体になった想定のサイズで飼育を開始して問題ない。 「大は小を兼ねる」である。幼体時は湿度不足による脱皮不全を起こし、まれに命を落とすこともあるので、全身が入れる大きさで入り口以外は密閉された容器に、 水分を含んだ水苔を配してやると、好んで入ることが多いので、必ず常設してやりたい。

また、もともと活発な動きをする本種だが、特に幼体時は立体活動が激しいので、止まり木は設置してやりたい。その際、ヘビの身体より太い木にしてやることを忘れずに。

ケージサイズだが、はっきりいって「でかくて高さがとれる」ほどイイ。が現実的には最低でもW900xD600xH400は欲しいところである。最適は「でかくて・・・」であるが、W1200もあれば、充分と考えていいだろう。 Snugle Cage SystemのMB-D60はまさに本種のために作ったので、是非使用してみていただきたい。

もともと樹上性が強いとされているが、樹上性というより、ゆっくりではあるがとにかく上にも下にも良く動き、重量感の割には活動的。 3M近くなるとGTPなど樹上性特有のポーズをすることはあまりなく、下でも上でもどっしりととぐろを巻く事ができるスペースがあれば大丈夫であるが、 広く、高いスペースを確保できるなら、太い木を用意してあげたいものだ。

重要なのは、ケージ内での寒暖乾湿の差を付け、できるだけ選択肢を多くしてやること。


生息地であるパプアニューギニアの年間を通した気温を参考にすると、
平均気温26〜27度  平均最高気温28〜31度  平均最低気温22〜23度

最高温度29〜31度、最低温度27〜29度程度の温度セッティングであれば、問題ないだろう。

・床材と湿度

床材は、特にこれを推奨するといったものはないが、大きくなる種なので、ウッドチップやヤシ殻などは床厚を5cm程度とらないと、ヘビが移動するたび動いてしまい、結果床材のない部分が出来やすいため実用的ではない。 また、給餌時に餌についた木片をいっしょに呑んでしまい、口内や食道を傷つける危険性もあることから、避けた方が無難だろう。

一般的ではあるが、新聞紙などの平滑な方が、衛生面でもコスト面でもいい。また、コスト高にはなるが、ペットシーツも有効である。 先にも触れたが、「水」の鮮度に注意し、特に幼体時は霧吹きや、床材にペットシーツを使い、ケージ内の温度調整と成体が暖まるためのプレートヒーター以外にもうひとつ小さな プレートヒーターを敷き、その上に少し水を含ませてやると湿度調整がし易いので参考にしてもらいたい。

パプアニューギニアの平均降雨日数 10 日/ 月であるので、3 日に1 度程度、霧吹きでケージ内を湿らせてやると良いだろう。
参考湿度セッティング60 〜 85%

・給 餌

産地での獲物は、孵化したての幼蛇ですぐに小さなトカゲ、スキンクとカエルを補食する。 juvenile(ヤングアダルト)〜アダルト個体は、鳥類、げっ歯類をはじめ、コウモリ、その他カンガルーの仲間であるクスクスなどの有袋類を補食する。 豊富な自然環境ならでは、秘境と云われるパプアニューギニアにおいて餌には困る事はないだろう。

飼育下おいては、通常の餌である栄養面でも供給面でも安定している冷凍マウス、ラットで問題ない。 しかし、しばしこのげっ歯類を嫌う個体も少なくない。特に鳥類を好む傾向が強いとは感じないが、ヤモリやカエルなどは供給面で?であり、 ましてや有袋類など手に入る訳もないので、鳥類(小型の)への恐怖が薄いことから、ヒヨコかウズラを試みるのも効果的といえよう。

そうしたケースには、鳥類を食すかどうか?冷凍ヒヨコかウズラを与え、食すようなら、その臭いをマウスかラットに付けて与えれば、大抵はげっ歯類に移行できる。

臭いの付け方はいくつか段階があり、冷凍ヒヨコかウズラの羽をむしって解凍後のマウス、ラットに付ければ食べる個体もいる。それでも食べないようなら、

  • 冷凍ヒヨコかウズラを解凍する前に、スライスし、その一片をジップロックなどの密封できる袋に冷凍マウス、ラットいずれかを一緒に入れ、解凍する。 完全に解凍されたヒヨコかウズラの一片にマウスかラット全身に擦り付け、与える。
  • 冷凍ヒヨコかウズラを解凍し、どこかを切開して出血させる。解凍後のマウス、ラットの鼻先に重点的に付け、全身にもまんべんなく付けて与える。
  • それでも食べなければ、上記の応用をいろいろと試す。

置き餌も効果的な場合もあるので、試してもらいたい。いずれにせよ、大きくなる本種においては、成長時を考慮し、食べが良いからといって、 鳥類やマウスに依存せず、できるだけ早めにラットへ移行しないと大変な手間となることが間違いないので、注意したいものである。

また、本種はその食べ方にとてもユニークな特徴を持つ。通常のヘビの多くは餌を与えれば、猛烈なアタックで餌を獲るが、本種はしばし、 じっくりと臭いを嗅ぎ、まるで人間のように「まったり」と食べることがあるのに驚くことだろう。 それは死んでいることをあらかじめ知っているように思える。

というのは通常のヘビの補食行動は、1,餌に食らいつき、2.全身でコンストリクトし、3.獲物の心肺停止を確認してから呑み込み始めるが、本種は1と2をしないことが多いのである。 「頭がイイ」とするのは、他の種では見られないそのような行動も大きな要因であり、魅力のひとつといえよう。

・書 籍

ベーレンパイソンに関する専門書 過去ほとんど書かれることのなかったベーレンパイソンに関する専門書。 ベーレンパイソンは世界の研究機関や動物園において最も注目され、またマニアの間でも非常に人気の高いパイソン だが、データが乏しく謎に包まれてきた。 そんな神秘に満ちたベーレンパイソンの扉を開ける鍵ともいえる一冊。生体や生息地の風景写真なども多数掲載。 Morelia Reptorも著者であるAri R. Flagleとの交流があり、資料と画像提供している。
■記述言語 : 英語
■出版年 : 2009年
■出版国 : ドイツ
■頁数 : 全158頁
■サイズ :21cmx15cm
■装丁: ハードカバー
■Ari R. Flagle / Eric D. Stoops 著
PRICE : ¥7,900
Morelia Reptor
KENTARO

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