◎はじめに

まず、カーペットパイソンのみならず、動物分類学的学名には、とても面倒な研究者である「命名屋」が多く存在していることを年頭に置いて読んでいただきたい。
 
 それは、かなり長い間、カーペットパイソンとダイヤモンドパイソンの2亜種のみが認められてきたが、1980年代に入ってWells and Wellingtonによる一連の論文で、彼らは分類を行ったと言うよりも、単に大量の名前を作ったと言うのがふさわしい、とんでもない出版物を出している。こんな名前が有効になっては困るというので、多くの研究者がこれらを無効にするように、動物命名法国際審議会に働きかけたが、残念ながら覆すことはできなかった。
 実は有効な出版物とそうでない出版物を客観的に分けるのは非常に困難で、簡単に言えば、タイプ標本を指定し、簡単な記述と名前を付ければ、それが生物学的に意味があるかどうかには関係なく、誰でも名前は付けられてしまうのが現状らしい。その後、他の研究者が詳しい検討を行ない、たまたま新たな亜種を認めるべきだと考えた地域に、その名前が引っかかっていれば、それが新たな亜種名となってしまう。そうでない学名はどんどん消えていく運命にある。
Wells and Wellingtonは、厚顔にもcheynei,mcdowelli,metcalfeiといった名前を亜種ではなく新種として命名し、その少し前にL.A. Smith(1981)がこちらは綿密な研究に基づいて、西部の亜種Python spilotus imbricatusとして命名したのを種に格上げしている。

その後道は2つに分かれ、

a.こんな学名には付きあわないとして、亜種の分類には興味を示さない派

b.とりあえず細かく分けてみて、使える名前ならば仕方がないから使おうと考える派

後者のお陰?で一応上記の名前も何とか生き残った。
Wells and Wellingtonの一件で、学者達はうんざりしていたところ、実はまた最近別の命名屋が現れているらしい。我々としても、これはとても困った問題である。

それが下記に関わるHoserという人物(命名屋)だ。
この人は自費出版に近い、かなりいい加減な出版物で、ニシキヘビばかりでなくデスアダーなどコブラ科のヘビについても、やたらに新しい名前をまき散らしている。

この文章を書いているだけでも腹が立ってくる。

Harrisoniというのをやはり新種として記載したのがHoserで、
Hoser, R. (2000) A revision of the Australasian pythons. Ophidia Review, 1: 7-27.という文献に現れる。これは日本蛇族学術研究所の鳥羽通久所長も読んでおられないらしく、その有効性については判断出来ない。有効な亜種だとすれば、ニューギニアの亜種ということであろう。しかし我々を含む世界中のキーパー並びにブリーダーは、すでにHarrisoniという名前を使用している傾向が多い。

◎カーペットパイソンの学名に纏る事項について

オーストラリアのネズミ大発生を抑制するため、島全土から、カーペットパイソンが招集され、放たれたという事を聞いたことがある方は少なくないであろう。
 これは、それほど古くない昔(正確には不明)、(下記参考文献にはnot too distant pastという表現となっている)農場主達がネズミを駆除するために、カーペットスネークを放すことが広く行われていた、というものである。ヘビは捕獲または、購入によるもので、様々な産地のカーペットパイソンが、各地に持って行かれ、その結果遺伝的霍乱が起きた、ということのようだ。
協力:日本蛇族学術研究所 鳥羽 通久氏  
情報源は、Greer, Allen (1997) The biology and evolution of Australian snakes. Surrey, Beatty & Sons, Chipping Norton, NSW, 358 pp.

また、Diamond Python(Morelia spilota spilota)とCentral Python(Morelia
Bredli)には英名に「Carpet」を両者ともにCarpetとする人が我が国でも存在するようだが、こういう一般名は、(この場合は英名であるが)それなりの歴史を背負っているのが普通で、長く使われてきた名称はそう簡単には変えられない、と言うことがあるようだ。実は日本爬虫両棲類学会でも和名委員会で、同様の議論があったことがあるらしい。簡単に言うと、学名が変更されたときに、それと連動して和名も変えるべきか、という論争である。

学名は系統分類を反映したもので、研究が進めばその時の見解に合わせて変更せざるを得なくなる。そこで、連動派は和名も変更すれば、和名も系統分類を反映することになって便利である、と考え、逆に学名・和名独立派は、和名をあまり頻繁に変更すると、一貫性が無くなり、特に部外者(分類が専門でない生態学者や植物学者)などには非常にわかりにくくなる、和名は固定しておく方がかえって便利である、との主張があった。たとえば千石正一氏は前者の代表で、スッポン属が分割されて、日本のスッポンがTrionixからPelodiscusに移されたとき、スッポン属という名称はTrionixに固定させるべきで、Pelodiscusにはキョウトウスッポン属という和名を当てた。しかし、多数は後者が主流派で、学会の標準和名としては、Pelodiscusにスッポン属が使われている。

ダイヤモンドパイソンとカーペットパイソンはかなり長い間、それぞれ亜種として認められてきたが、別種とした人もいた(Gray, 1849)らしく、学名は色々であっが、基本的には2亜種しか認められておらず、色彩にも大きな違いがあるので、特に問題はなかった。しかし近年になってカーペットがやたらに細分化され、英名として○○○Carpet Pythonというのが増加したが、ダイヤモンドにカーペットという名称が付いたことはない。色彩からいっても、カーペットグループはそれぞれに通ったパターンを持っているのに対し、ダイヤモンドはやはり違っている。ダイヤモンドにcarpetをつけたがる人というのは、上に上げた学名・一般名連動派の人であろうが、別にMorelia spilotaがすべてcarpet pythonと言う名称を持たなければならないというルールはなく、伝統的なDiamond pythonという名称が正しいと言って良いだろう。

Central pythonは、もともと独立種Python bredliとして記載され、その後もカーペットの亜種においた人がいたとしても、多くの場合カーペットとは独立の種として(非常に類似してはいるが)扱われている。よってcarpetを付けない名称が正しいだろう。
結論としてcarpet付けないというのが我々の見解である。ただ間違いとか正しいとか言うのは適当ではなく、学名と違ってきちんとしたルールがあるわけではないので、適切とか不適切とかいう言い方にならざるを得ない。

学名変化の歴史をたどり、次のような表を作成してみた。

以降、変化を追って、ここに追加していこうと思っている。

Morelia Reptor KENTARO(2007/12)

Taxonomic History of Morelias

(図をクリックで拡大図を表示します)

Morelia spilota spilota
基亜種
Morelia spilota
カーペットパイソン亜種
Morelia属独立種 Morelia属amethistinaグループ
Morelia spilota spilota基亜種Morelia spilotaカーペットパイソン亜種Morelia属独立種Scrub系Morelia属